2020年2月12日水曜日

色覚マイノリティがボードゲームのカラーデザインに求めること

1.この記事は?

twitterで「色覚特性がマイノリティの方がボドゲにどのような色の組み合わせ求めているか」という投稿を見かけました。ボドゲ+色弱勢(しかも世にもめずらしい3型(青緑系の色覚異常))を持った人間の目線から見て、その回答を整理するためにこの記事を書きました。

私の回答はとっても簡単で、
「色なんてなんでもいいから色が判別できる記号を付けてほしい」
に尽きるし、すでに呟いてもいるのですが、この記事ではこの意図をもう少し掘り下げて書いていきたいと思っています。
この記事がゲームをデザインしている方の心に留まればいいなと願っております。


2.私について

青と緑(など)の判別がつきにくい色覚特性(後天性)を持っています。この色覚特性が色覚異常がどんな感じなのかといわれると・・・

 ・色の名前は知っている。例えば、青と緑という色は知っていて、空は青色、葉っぱは緑色であることを知っている。
 ・自身が混同する色の組み合わせを知っている。たとえば、私は青色と緑色、オレンジとピンク、黄色と白などを混同しやすい傾向にあることをしっている。
 ・色を混同することで生活に大きな支障をきたすことはあまりない。ただし、色のみに頼った判別方法が必要な場面では困る。特にボードゲームでよく起こりうる。

 私の場合に限っていえば、日常生活では大きく困りません。パワーポイントを作るときに「お前は色選択のセンスがない」とお小言を頂戴するくらいでしょうか。
しかし趣味の世界となると話は変わります。私はボードゲーマーなのです。ボードゲーマーにおいて、色覚特性がマイノリティであることはハンデになりえるのです。
ボードゲームは「色」によりスートやユニットの種類、プレイヤーなどを区別していることがよくあります。使われている色や場所、その重要性によっては、プレイに支障をきたす場合がある(場合によっては全くプレイできない)ことも起こりえます。


3.色覚特性に関して

人間の目には赤・青・緑を感じるセンサがあります。これらセンサが感じる光の強度によって、人は色を判別しています。このうち一つ以上の機能が失われている(もしくは弱くなっている)状態を色覚異常といいます。色覚多様性などとも呼ばれるようです*。本記事では、表記を簡略化する目的で、色覚特性がマイノリティなことを色覚異常と記載いたします**。色覚特性に関する詳細はカラーユニバーサルデザイン機構***のページが詳しいです。このページには、色覚異常者にとっても判別しやすい色の組み合わせについても掲載されているので、デザイン上の参考になるでしょう。
 *参考:(Wikipedia) 色覚異常(Wikipedia上で青緑系(3型)の色覚異常者は数万人に1人との記載がありますが、私の色覚異常を引き起こしている要因である病気が5000人に1人程度いると言われているため、青緑系の色覚異常者の割合はもう少し多いと私は考えています。)
 **私自身が色覚異常者であることからご理解いただけると思いますが、色覚異常という表現に何ら差別的な意図は含んでいません。単純に毎度毎度「色覚特性がマイノリティである」といちいち書くのが面倒であったため、こちらの表現を採用しています。
 ***(ホームページ)NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構



4.ボードゲームのカラーデザインにおける私の考え

私はボードゲームにおけるコンポーネントの全ての要素に対して色覚異常者向けのカラーデザインに気を配る必要があるとは思ってません。むしろ、テキストが読めさえすれば、カラーデザインには大して気を配らなくていいとすら考えています。その理由を以下に記載してします。

①プレイヤーカラーに気を配る重要度は低い
 自分が選ぶことのできるプレイヤーカラーに関しては色覚異常を気にする必要がないというのが私の考えです。これは、「自分の置いたコマなどのリソースは割と覚えている」という前提に基づきます*。
 例えば、青・緑・赤・黄のプレイヤーカラーの中から自分の担当する1色を選び、その色のコマを盤面に配置していくゲームがあったとします。こういったゲームで私は、(私の場合は青と緑の判別が付きにくいので)色の判断付きにくい青か緑を担当させて貰えるように調整します。ゲーム中は、自分の置いたコマを覚えておく**ことで、見分け辛い色を判断できるため、プレイ上差し障ることはありません。
 一方で、「テラミスティカ」のように、色に意味があり***好きな色をプレイヤーカラーとして選べない場合には、カラーデザイン上気配りをしたほうがいいようにおもわれます。
*そのため、ライト層に向けたゲームや素早い判断が求められるゲームに関してはこの限りではないかもしれません。
**自分のコマの位置はゲームプランに必ず影響するため、他のプレイヤのコマ配置を覚えるよりも簡単です。
***テラミスティカでは、選んだ種族によってプレイヤーカラーが決まります。例えば、ノマドという種族をプレイするならば、プレイヤーカラーは必ず黄色になります。


②スートの色より先にテキストの可読性を考えて!
 トレーディングカードゲーム(TCG)ではコレクション性を高めるため、テキストの可読性が犠牲になっているデザインがたくさんあります*。

ポケモンカードのレア絵。裏側の背景を際立たせるためにテキスト部分が
やや読みづらくなっていると感じます。

先に挙げたデザインが悪いと私は思っていません。TCGは「プレイヤーがルールやカードテキストについて十分に理解しており、数十回・数百回と繰り返し遊ばれる」ことを前提にデザインがなされています。カードを沢山買ってくれる顧客(≒熟練したプレイヤー)は大体のカードテキストを覚えているため、(読み返すことのない)テキストの可読性を落としたとしても大きな問題にならないのだと思います。
一方で、ボードゲームはTCGと状況が異なり、「大半の人がルールを知らない状態でプレイし、10回以上プレイするゲームは稀である」層をターゲットとしているものが多いはずです。カードテキストの可読性はゲームの快適性に直結するため、読みやすいテキストとなるように気を配る必要があると考えます。判読性は全てのプレイヤーに向けたものであるため、色覚異常に優しいカラーデザインよりも優先して取り組むべき内容であると考えます。
*ポケモンカードを例として挙げていますが、ほかにもこのようなデザインをしているTCGはあります。


③全てのプレイヤーにっとて判別しやすい複数色を選定することは困難極まる
赤色と緑色の判別が付きにくい人がいる一方で、青色と緑色の判別が付きにくい人もいます。この両者にとって優しい色の選定は困難を極めます。
例えば、赤色と緑色は青緑系の色覚異常者である私にとって最も見分けやすい色の一つなのです。一方で、私が判別に窮する青と緑、オレンジとピンク、白と黄色などは赤緑系の色覚異常者にとって判別しやすいそうです。
2色、3色なら両者に優しい色も見つけられるでしょう。しかしこれが、5色、6色と増えた場合に、色の判別性と一般色覚者からみたデザイン性を両立させるのは難しいのではないか?というのが私の考えです。また、次項の理由から、色の判別性はそこまで効果がないと私は考えています。


④遊ぶ環境によって、色の見え方は変わる
ボードゲームはどこで遊ばれるでしょうか?家かもしれませんし、公民館かもしれない。ゲームカフェやゲームバー、旅先の旅館でプレイされることもあるでしょう。
一方で、色のデザインは、パソコンの画面上でなされることがほとんどでしょう。これは、白色の面光源がテーブル上をくまなく、一様に照らしている状況に近い環境だと考えられますが、実際はこんな環境でプレイされていることは稀でしょう。例えば、

・暖色系の照明が使われており、全体がオレンジ(や黄色)がかって見える。この結果、白と黄色、オレンジなどの判別性が想定よりも見づらくなる可能性がある*。
・照明の位置や立体的なコンポーネントによって、テーブル上に影ができる。影の部分にあるコンポーネントとそうでない場所にあるコンポーネントでは色の見え方が異なる。この結果、例えば影でないところにある赤色と影にあるピンク色の判別が難しくなる可能性がある*。(私の場合はオレンジとピンクの区別がつかないため、影にあるオレンジと明るい場所にある赤を混同してしまうことがある)
・そもそも、部屋全体が薄暗いため、色合いの違いがパソコン画面で見ているほどはっきりしない

のようなシチュエーションが考えられます。ゲームデザイナーはプレイヤーが遊ぶ環境を選べないため、プレイヤーが感じる色味を完全にはコントロールすることは出来ません。環境によって伝わり方にぶれがあるものを気を配って色味を調整する行為はもしかしたら可能なのかもしれませんが、効果に対してかけるコストが割りにあわないように私は感じます。
配色に固執することなく、別の観点から色覚異常者に情報を伝える方法を検討すべきではないでしょうか?
*あくまで色覚異常者の見解なので、実例に挙げた不便さを一般色覚者が感じるかどうかはわかりません。


5.最も信頼できる方法は「図形」

赤と黒を判別する必要のあるトランプゲームは赤と黒の判断が困難な色覚特性を持ったプレイヤーが遊べないでしょうか?そんなことはないはすです。なぜなら、トランプには4種のマークが書かれており、マークを見ることで色に頼らずとも赤色か黒色かを判別できるからです。
図形は色覚に左右されずに情報を伝えられるため、色覚異常者に優しいゲームデザインを考える際に有効なツールとなりえます。色覚特性やプレイ環境によって見え方が左右される色という情報よりも、図形を利用して情報を伝達した方がより安定して情報を伝達できると私は考えています。
以下に図形を使って色を判別できるゲームの一例を挙げます。

実例その1:マジック・ザ・ギャザリング
マジック・ザ・ギャザリングには、5色の色がありますが、例え色の判別ができなくてもカードがどの色かがわかるように工夫されています。各色にはその色を想起させるようなマナ・シンボル(例えば青は水滴、緑は木がシンボルのモチーフになっている)が割り振られているため、マナ・シンボルさえ見れば、色が判別できるようになっているのです。
カードの右上にあるシンボルを見れば、このカードが白(太陽のシンボル)と
青(水滴のシンボル)の属性を持ったカードであることが判断できます。


実例その2:宝石の煌めき
このゲームは、非常に人気の出たゲームですが、(人気が出たからこそ)色覚異常者にが遊ぶには難しいゲームであることが指摘されていました。初版において、カードを獲得するための条件が色+数字のみで書き表されていましたが、2版以降では色と数字に加えて、各色に対応する宝石の絵を載せることで、色覚異常者でもプレイしやすいデザインとなりました。

宝石の煌めきのシンボル(2版)。1版は右側の宝石(色によって形が異なる)の記載が
なかったため、色覚異常者にとって青と緑(もしくは赤と緑)の判別が困難でした。




6.対応を諦めるということも一つの選択肢

こんなことを書くと眉間に皺を寄せる人もいるでしょうが、色覚異常者への対応を諦めるというのも1つの選択肢であると私は考えます。
全てのプレイヤーに対し、色覚異常者は多くて10%程度であり、この10%の殆どが赤緑系の色覚異常です。その他の色覚異常は全体のほんのわずか(0.1%に満たない)でしょう。
デザイナー(売り手)としては、全ての層に訴求する必要はありません。ターゲット層の拡大という利得に対してかかるコストが甚大な場合はターゲット層の拡大を見送る方が、経営の観点からは合理的なはずです。
 ・色覚異常へのサポートをせずに全体の90%程度をターゲットとする。
 ・赤緑系色覚異常のみサポートを行うことで、100%ではないが、全体の99%以上をターゲットとする。
などは予算や時間のリソースが限られたゲームデザインにおいて、有効な妥協点となるでしょう。

たとえば、任天堂のSplatoon 2というゲームでは色覚サポートなるオプションがあります。
これは、陣営の色を青や黄色など、赤緑系の色覚異常者にとって判別しやすい色に固定できるモードです。このモード、実は青緑系の色覚異常者には全く対応していないのです*。サポート対象外と言われた青緑系の色覚異常者としては悲しい気持ちはある一方で、限られた開発時間ではしかたがないよなぁ。。と思うところもあります。
*ピンクと緑のインクに固定出来るオプションがあれば私としては有難かったのですが。。

天下の任天堂ですら(カラーデザインが大切なゲームで)カラーデザインに妥協するわけですから、よりリソースの限られる個人がカラーデザインに妥協することは全く恥ずかしいことではないと私は思います。デザイナーは自分の目標やリソースにマッチした適切なカラーデザインの目標を選定すればよいと私は思います*。
*1万部作るゲームであれば数万円かけてシンボルデザインをするのは良いでしょう。ゲーム製造原価に与える影響は微々たるものだからです。しかし制作数が100部しかないゲームでは製造原価を数百円を上げてまで色覚対応するためのシンボルを実装するかは微妙なところだと思います。


7.さいごに

この記事あくまで個人の感想です。世にも珍しい青緑系の色覚異常ボードゲーマーがどのような色眼鏡で世界を見ているのかということを知っていただければ私としてはうれしい限りです。
本記事について何か不明点などがありましたらtwitter(@juutanisland)でお気軽にご質問ください。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。

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